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文化庁は、安定的な文化財の継承に向けた支援強化策「文化財の匠(たくみ)プロジェクト」を令和4年度から始める。
国宝や重要文化財の修理・保存に欠かせない技術や原材料を確保し、人材を育てるのが狙いだ。背景には後継者不足、貴重な原材料生産者の高齢化などがある。
美術工芸品でも建築物でも、年月を経た文化財は定期的に修理や整備が必要だ。ところが近年は技術者不足に加え天然の原材料不足も重なり、事業期間の見通しが立たない例が増えている。
2年度には重文の美術工芸品で207件の修理の要望があったのに対し、認められたのは190件だった。史跡名勝では措置できた割合が要望額の57%にとどまった。事業期間の見通しが立たず、着手に踏み切れないという。その間、さらに劣化が進むという悪循環で、長い目でみれば経費増大も招く。
文化庁は現在、文化財の修理技術や、それに使う材料・道具の製作技術などを選定保存技術と位置づけ、保持者54人、39団体を認定して支援している。うち漆工品(しっこうひん)修理、甲冑(かっちゅう)修理、表具(ひょうぐ)用手漉(てすき)和紙製作、本藍染(ほんあいぞめ)など継承が危ぶまれる技術は多い。保持者の平均年齢は73歳で、いつ技術が断絶してもおかしくない危機にある。
そのため同プロジェクトでは対象とする技術を増やし、修業中の後継者に研修経費を補助するなど支援を手厚くする方針だ。
また、修理のための用具や原材料の入手が困難になりつつある。例えばコウゾは絵画や書の装丁に使う紙の原料だが、手間がかかる上に重労働のため、生産に携わる農家が限られる。現在は5品目について一部経費を支援しているが、今後は品目数も拡大する。生産や流通が安定するよう新たな仕組みづくりも始める。
課題だったのが拠点の整備だ。京都国立博物館内の修理所が老朽化している上に手狭なため、国立の文化財修理センター(仮称)を建設する。その関連予算を4年度の概算要求に盛り込んだ。同センターでは、新技術の開発や原料に関する調査研究も行う。
文化財は日本文化の美の結晶で、受け継がれてきた精神文化の象徴だ。保存が危ぶまれる現状を知り、守り伝える役目が国にも国民にもある。支援を急ぎ、日本の宝を確実に未来へつなぎたい。
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2021年9月12日付産経新聞【主張】を転載しています